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「いのちをいただく」動物→肉の現場イラストルポ

img-119131047-0001ta.jpg世界屠畜紀行

内澤 旬子・著
解放出版社・刊
四六判並製 368ページ
本体2,200円+税

著者の内澤旬子氏は、これまでに松田哲夫氏との共著で『印刷に恋して』『「本」に恋して』などを出版してきたイラスト・ルポライター。本書はそれらの小粋な感じとは色合いが異なり、「食」の問題に一石を投じる2段組みの大冊であり、「いつも肉を食べているのに『肉になるまで』のことをまるで考えたことのなかった」著者が、海外と日本の「屠畜」現場をつぶさに歩き、自ら経験し、綿密に取材した出色のルポルタージュである。スーパーでパッケージされた食肉を購入する際の、ある種の常識、思い込みやきれいごとを超えて、ここには人間が食べること生きることの本質、意味を問う鋭い視線にあふれている。

と同時に著者は、いわば「文化」としての「屠畜」現場にも視線を配る。わが国では、「屠畜」に携わる人々への偏見・差別の問題がついて回るのも事実であり、著者はその問題にも避けることなく正面から切り込んでいく。世界中の大工場から家庭的な「屠畜」現場までを取材することで、人間の五感や宗教にまで立ち入り、ありのままの現実と問題点を浮かび上がらせる。この辺りは下手な比較文化論など足元にも及ばない鮮やかさ、手際のよさ、圧倒的な説得力。まさに目から鱗の、惰性化した日常を問い直す「地球の歩き方」だ。

とはいっても、少しも深刻ぶることなく、気の向かうままに現場を飛び跳ねるような身軽い文章が読者の興をそそり、多くのイラストとイラストに添えられ微に入り細を穿った吹き出しが本文と同じかそれ以上に理解を助ける。まえがきでも触れているが、あえて「屠殺」という言葉を避け、「屠畜」を書名にしたあたりにも、著者の意気込みのほどがうかがわれる。

人気の高いノンフィクション作家の佐野眞一氏は、2008年11月に刊行した最新作『目と耳と足を鍛える技術』(ちくまプリマー新書)で、「私が推薦するノンフィクション百冊」の1冊に本書を選んでいる。

【参考】美しい映像で生物(命)と食べ物の間の状態を提示する傑作ドキュメンタリー『いのちの食べかた』

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